suketani’s diary

個人的メモ用、どこも代表していない

前澤効果:1億円バラマキ企画はZOZOの株価に影響を与えたのか(検証編)

前回の調査編に引き続き、前澤社長1億円バラマキ企画の影響について。

ツイートされてから日が浅かったこともあり、データが揃っていなかったためざっくりとした分析しかできなかったが、
今回はより長い期間の株価データと取引データを取得して、より詳細に分析していきたい。

はじめに結論は以下の2点:

  1. 月旅行ツイートと1億円ツイートの後、ZOZO株式に正のリターンが観察される
  2. 両ツイートは、ZOZO株式の流動性を改善している



予備知識として、ZOZOの時価総額について。全く関心がなかったので勝手に絶好調企業だと思っていたが、ここ半年はかなり苦境に直面しているようだ:

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ZOZOの時価総額

これは、ZOZOの株式時価総額をプロットしたものである。Y軸は億円で表示している。
2018年7月末から直近の2019年1月18日にかけて、時価総額が1.41兆円から0.69兆円に半分以下になっている (48.5%)。
前澤氏の株式保有比率は41.16%なので、単純計算で3,005億円の個人資産を失ったことになる。なんと、、規模が違いすぎるお話。

分析

さて、件のツイートである。前澤氏はいったい何を目的にあのツイートをしたと考えられるのか、また本人が意図していなかったとしても、どのような経路から株価に影響を与えているのだろうか。
ここでは、月旅行のツイートと1億円ツイートの両方を分析対象として、その影響を分析する。

仮説

直観的な議論で申し訳ないけど、前澤ツイートの決定要因を説明できる仮説は3つかなと。参考にしたのはLys, Naughton, and Wang (2015)である。

H1: 単に寄付

まずは特に株価への影響を考えていない場合。単に個人的な寄付だ、という仮説。市場がこのように解釈していれば、ツイートに対して特にないも反応していないはず。

H2: 投資・コマーシャルのつもり

これは、将来のキャッシュ・フローや売り上げを上げる効果のこと。あのツイートでZOZOを利用する人が増えて、将来の利益が増えるという経路。もしこれに成功していれば、株価は上向くはず。

H3: 投資家へのプロモーション

つづいて、ZOZOの投資家に対するプロモーションである。ツイートが話題に上がり投資家から注目されることで、株式の流動性を高める効果を期待しているのかもしれない。
もしこの効果が表れているならば、株式の流動性が改善しているはずである。

H4: 情報を伝えたい

最後に、何らかの情報を伝える目的であるという仮説である。ツイッター上での注目度が高まると、評判を高めることでレピュテーション・インシュランス (Peloza 2006) として機能したり、
訴訟リスクが低いことのシグナルになったりする可能性がある。これが正しいとすると、H2と同じ結果になると考えられる。

どの仮説が今回の減少を説明できるかを検証するために、それぞれのツイートの株価と株式の流動性への影響を分析する。

データ

以下の分析は基本的な統計量のみを用いた分析に過ぎないので、本気でやるならきちんと比較対象を設定して検証しましょうね。
あくまで初歩的な分析からわかることを論っていくだけなので、あくまでご参考までに。

株式の異常リターンはCAPMで、株式の流動性はAmihud (2002) の非流動性指標を用いる。
 ret_i = \alpha + \beta (ret_{mkt} - ret_{free}) + \varepsilon
 illiq = \frac{10^{4}}{\# days} * \frac{|ret_i|}{volume}

流動性指標については小数点を調整するために、10の6乗ではなく4乗を用いている。

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ZOZOの異常リターンと流動性

このグラフは、2018年7月30日からの累計異常リターンとAmihudの非流動性指標の10日間の移動平均をプロットしている。青がCARであり、赤が非流動性指標である。
左軸がCARを、右軸が非流動性指標の数値を示している。

まず異常リターンを見ると、ツイート自体にはそこまで大きな影響がないように見える。細かく見るために、ツイート後の取引日をtとした場合の異常リターンをプロットすると以下のようになる:

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イベントスタディ


t日には異常リターンが1%を超えている。これは十分に経済的に重要な影響である。それぞれのツイートは、ZOZOの株式に正の影響を与えていた。H1と整合しない結果である。

対して、非流動性指標はツイートに反応して低下しているように見える。なお、プロットしている期間に決算発表を除く主たるプレスリリースはなかった。
これは、H3と整合する結果である。

暫定的な結論・感想

月旅行と1億円キャンペーンのツイートは、株価に正の影響を与えていた。また、株式の流動性を改善していた。
これは、投資家に対するプロモーションと最も整合する結果ではあるが、PRやシグナリングといった結果を棄却できてはいない。
少なくとも、単にチャリティとして企業価値と関係がない、というわけではないことがわかった。

とかく今回のデータをみてびっくりしたのは、ZOZOの状態が悪すぎること。株価は低いし、流動性は悪化しているし。前澤氏は思った以上に苦境に直面しているようだ。

同様の事例を多く集めて、統計的手法を用いることが望ましいがなかなかむつかしい。。。

参考文献

Amihud, Y. (2002). Illiquidity and stock returns: cross-section and time-series effects. Journal of financial markets, 5(1), 31-56.
Lys, T., Naughton, J. P., & Wang, C. (2015). Signaling through corporate accountability reporting. Journal of Accounting and Economics, 60(1), 56-72.
Peloza, J. (2006). Using corporate social responsibility as insurance for financial performance. California Management Review, 48(2), 52-72.