suketani’s diary

個人的メモ用、どこも代表していない

Elon Muskのツイート:事実確認編

SECとElonの喧嘩について騒ぎにったが、この件は証券市場とディスクロージャーについて考察するうえで非常に示唆に富むケースワークなので長めにまとめておきたい。同じ題名でElonのメッセージの解釈とそこから考えられる問題について、ひとつひとつ紐解いていく。

 

8月7日のツイート

この騒動の発端はElonの次のツイート:

 

2018年8月7日、TeslaのCEO Elon MuskがTeslaを非上場化するとツイートした。Elonは取締役会で承認を得る前に、また非上場化が可能であるかが不明なままこのツイートをしていたことがわかっている。

 

このツイートで言及している一株当たり420米ドルでの買収というのは、前日8月6日の価格が342米ドルであることからも破格のプレミアム(23%)がついていることがわかる。株主は株価が419米ドル以下であるときにTesla株を購入しておけば利益を得ることができる。発表直後に株価が跳ね上がるのも当然だ。

 

 このツイートはElonが彼女のGrimesのために冗談をつぶやいただけなどという噂がある。そんなゴシップ的な面白さとTeslaの投資家の財布には重要な問題ではあれど、そうでない人にとってはさして重要な問題には見えないかもしれない。

 

Elonの言い訳

Elonが株価操作や詐欺に当たる可能性についてSECとの協議の末、会長を辞めることになった。ただそれだけの問題であると見ることもできるだろう。では次の文章はどうだろうか。

www.tesla.com

 

これは、Elonがツイッターでのアナウンスの正当性について説明している、従業員向けのメールである。送信日はツイートしたのと同日の8月7日で、Elonは非上場化することがなぜTeslaにとって良いことなのかを訴えている。

 

解題は次回に譲るとして、ここでは主なメッセージを引用しながら確認しておく。なお、ここではツイートの正当性について言及している点のみに焦点を当てるため、今後どのように対応していくかという点についてはこの一連のまとめの最後に触れたいと思うのでしばしお待ちを。

 

ElonはTeslaを非上場化する理由を次のように述べている:

As a public company, we are subject to wild swings in our stock price that can be a major distraction for everyone working at Tesla, all of whom are shareholders. Being public also subjects us to the quarterly earnings cycle that puts enormous pressure on Tesla to make decisions that may be right for a given quarter, but not necessarily right for the long-term. Finally, as the most shorted stock in the history of the stock market, being public means that there are large numbers of people who have the incentive to attack the company.

引用:Taking Tesla Private | Tesla

端的に理由は3つ:

  1. 株主でもあるTeslaの従業員が株価の変動を気にして集中できていない
  2. 四半期ごとの利益を気にしなければならず、短期的な意思決定をするプレッシャーが強く長期的な意思決定ができない
  3. 会社を攻撃しようとするインセンティブを持った人が増える (例えば、ショートポジションの株主)

Elonは株主からの攻撃やプレッシャーから会社を守るために、株式を自由に取引できる証券市場から身を引く非上場化という選択をしたいということのようだ。特に強調しているのは長期的なミッションを達成することへの意識だ。

I fundamentally believe that we are at our best when everyone is focused on executing, when we can remain focused on our long-term mission, and when there are not perverse incentives for people to try to harm what we’re all trying to achieve.

This is especially true for a company like Tesla that has a long-term, forward-looking mission. SpaceX is a perfect example: it is far more operationally efficient, and that is largely due to the fact that it is privately held. This is not to say that it will make sense for Tesla to be private over the long-term. In the future, once Tesla enters a phase of slower, more predictable growth, it will likely make sense to return to the public markets.

引用:Taking Tesla Private | Tesla

逆説的に彼の文章をとらえれば、短期的な利益を追求することのプレッシャーやTeslaに損害を与えようとする人がいることによってTeslaは「(あるべき) ベスト」な状態ではなくなってしまっている、とElonが認識していると考えていいだろう。

 

逆に、彼が今「ベスト」だと考えているのがSpaceXであるということもわかる。SpaceXはElonが創設した宇宙運送を主たる事業としている企業である。Elonはその議決権を過半数所有しており、上場企業=Teslaのように株主からのプレッシャーなどからは遮断されている。彼はこれによって長期的なミッションに集中できており、これが「ベスト」だと考えているのだろう。

 

論点:考えていくこと

さて、これらの一連のElonのメッセージにはどのような意図があったのだろうか。Teslaに特殊に生じた議論だと考えてもいいだろう。実際に、Elonが考えているのはTeslaと彼自身の利益のことであろうし、このニュースはニュース以上の価値はないと考えても問題ないと思う。

 

また、この10日後にトランプ大統領が四半期開示の廃止を議論することをSECに指示したことも、この一連の騒動の重要性を象徴していると考えられる。

 

 

しかし、私はここにある文脈を読み取りたい。すなわち、このElonのメッセージは彼や彼の経営する企業固有の問題ではなく、米国の「ある文脈」にもとづいて発せられたものであり、ひいてはあるべき経済システムを考察するうえで極めて重要な問題提起であると捉えてみたいのだ。

 

私は次のような論点を読み取ってみたい:

  • 論点1:証券市場は企業にとって有用なものなのか?
  • 論点2:ディスクロージャーは企業にとって良いものなのか?
  • 論点3:それらの傾向は昔から存在したのか?

端的にまとめておくと次のようになる。論点1は、上場することで企業に良い影響があるのかという論点である。論点2は、企業が情報開示(ディスクロージャー)することによって本当に恩恵を受けているのかという論点で、論点3はではこれらの問題点はElonがメッセージを発する前から存在したものなのか、21世紀に入ってから突然生じたものなのかを考えたい。

 

それでは次回は、上でも簡単にまとめたElonの従業員へのメッセージを細かく参照し、そこからなぜ上のような論点が出てくるかを考える。